(1) 腎臓の機能
腎臓にはいくつか役割がありますが,このうち,最も重要な役割は,血液を濾過し血液中の老廃物,余分な水分,電解質・酸を尿という形で体外に排出することです。
(2) 腎機能の低下に伴う問題
ところが,高血圧,糖尿病などが原因(※)となって腎臓の機能が低下してしまうと,血液中の老廃物等を体外に排出する機能も低下することから,むくみや貧血,骨の量・質の低下といった問題が発生します(慢性腎不全)。そして,さらに腎機能が低下してその機能が健常者の10%以下になってしまう状態を末期腎不全といい,この状態になってしまうと腎機能を代行するための治療法である透析又は腎移植が必要となります。
※ 透析を導入した患者の原疾患の第1位は糖尿病性腎症(43.5%),第2位は慢性糸球体腎炎(21.2%),第3位は腎硬化症(11.6%)となっています。
(2010年12月末現在の統計値 出典:図説わが国の慢性透析療法の現況 Ⅰ-3)-(2)導入患者の原疾患と平均年齢)
(3) 慢性腎不全
慢性腎不全に陥ると,腎臓は元の正常な状態にまで回復することはなく,末期腎不全にまで進行することがほとんどです。しかしながら,適切な治療を施すことによって,末期腎不全に至る時期,即ち透析・移植が必要となる時期を遅らせることができることがあります。
(4) 末期腎不全とその治療手段
末期腎不全に至ってしまった場合には,その後の腎機能の回復は望めません。このため,末期腎不全患者は,腎臓の主な役割である血液中の老廃物等を体外に排出するという機能を失うこととなります。老廃物等の体外への排出がなされないと,尿毒症や高カリウム血症,心不全などの重大症状を引き起こし命に関わることになりますので,末期腎不全患者は透析や腎移植をしなければなりません。
上記のとおり,末期腎不全に陥ってしまった場合には,透析療法又は腎移植を行わなければなりませんが,このうち,人工的に血液中の余分な水・電解質・老廃物を除去し浄化する働きを代行する方法が透析療法です。もっとも,透析療法は腎機能を回復させるものではなく,腎臓の一部機能を代行しているに過ぎません。そのため,末期腎不全になってしまったら腎移植を行わない限り,透析療法を生涯継続しなければならないのです。
透析療法には,血液透析と腹膜透析の2種類があります。
血液透析とは,血液を体外循環させて透析器を通して尿毒素を除去するもので,腹膜透析は,自分の腹膜を用いて尿毒素を除去する方法です。
なお,日本透析医学会の統計資料によれば,我が国の透析患者29万7千人の96.7%が血液透析を受けており,腹膜透析の割合は3.3%に過ぎません。
(2010年12月末現在の統計値 出典:図説わが国の慢性透析療法の現況 Ⅰ-2)-(5)慢性透析治療の形態)
<準備:シャントの作製>
血液透析では血液を体外循環させることから,大量の血液を体外に出す必要があります(1分間に200ml)。そこで,血液透析を開始する準備として,透析のための血液の出入り口を作る必要があります。この血液の出入り口を一般にバスキュラーアクセスといい,その代表的なものがシャントです。シャントは,手首近くの腕の動脈と静脈を手術でつなぎ合わせることで作ります。シャントを作ることにより静脈に多くの血液が流れることになるため,大量の血液を体外に導出することが可能となるのです。
<方法>
血液透析は,バスキュラーアクセス(シャント)に針を刺し,ポンプを使って血液を体外に導出させ,ダイアライザと呼ばれる透析器に血液を循環させて尿毒素等を取り除いた後,血液を体内に戻します。
血液透析は,1回につき3~5時間程度かけて行われ,通常は週に2~3回行う必要があります。
<機能>
血液透析が行われることにより,血液から老廃物・カリウム・リン・尿として排出されるべき水分が除去され,透析液からはカルシウムやアルカリなどが補われます。これにより,本来の腎臓の機能のかなりの部分を血液透析で代行することができます。
<血液透析特有の合併症>
血液透析導入時には,10日間程度入院することがあります。これは,血液透析導入期に不均衡症候群とよばれる症状が出やすいためです。不均衡症候群とは,透析中から透析終了後12時間以内に起こる頭痛・吐き気・嘔吐等のことをいいます。これは,尿毒素が除去されにくい脳と透析によって尿毒素が除去された血液との間に濃度差が生じ,濃度の高い脳が周囲から水分を吸い取ることで脳がはれることが原因であるとされています。
<機能>
小分子の尿毒症物質を拡散(濃度差による物質の移動(高濃度→低濃度))により効率よく取り除く透析と,高分子の尿毒症物質まで取り除ける濾過を組み合わせた血液浄化療法です。
老廃物と水分を除去する原理は血液透析(HD)と同様ですが,血液透析濾過は,血液と透析液の圧力差を大きくして多くの水分を抜くことで,より多くの老廃物を除去します。水分を多く抜いてしまうため,血液中の水分が減りすぎ脱水になってしまうので,水分を置換液として補液します。この点が血液透析とは異なります。
<利点>
血液透析濾過は,血液透析よりも中分子料の除去効率が高いため,透析アミロイド症の原因物質であるβ2ミクログロブリンの除去効率も高くなります。このため,透析アミロイド症の症状が改善されます。
また,HDFでは,透析中に血圧が下がりにくくなるといわれ,さらに,全身のかゆみやいらいら感の改善に効果があるようです。
<問題点>
オンラインHDFでは,血液透析とは比較にならないほどの大量の透析液が血液に入りますので,透析液の清浄度を厳重管理しなければなりません。このため,血液透析に比べ,コストが高く準備に時間がかかります。
<診療報酬>
血液透析濾過については,血液透析によって対処できない透析アミロイド症などの患者を対象として実施した場合に限って算定することができます。したがって,全ての透析患者が保険の範囲内で血液透析濾過を受けられるわけではありません。
<準備:カテーテルの埋め込み>
腹膜透析は,腹腔内に直接透析液を注入し,一定時間貯留している間に腹膜を介して血液浄化を行う透析方法です。
腹膜透析を行うには,透析液の出し入れをするためのカテーテルを腹腔内に埋め込む必要がありますので,カテーテル挿入手術を行わなければなりません。手術後,カテーテルが身体になじんだら透析が開始されます。
<方法>
腹膜透析では,一回の透析につき2000mlの透析液を腹腔内に注入します。すると,腹腔内に透析液が入っている間に,腹膜の血管を通じて過剰な水分や老廃物等が透析液側に滲み出していき血液が浄化されていきます。そして,血液が浄化されるのに必要な一定時間が経過したら,透析液の廃液を行います。なお,透析液の注入には7~10分,廃液には10~15分程度かかります。
<種類>
腹膜透析には,CAPD(Continuous Ambulatory Peritoneal Dialysis:連続携行式腹膜透析)と,APD(Automated Peritoneal Dialysis:自動腹膜透析)の2種類の方法があります。
CAPDは,「透析液の注入 → 一定時間の経過 → 廃液」というサイクルを1日に3~5回行うもので,APDは,装置が自動的に夜間3~5回の透析液の出し入れを行い,寝ている間だけで透析を完結させるものです。
<利点と問題点>
腹膜透析は,血液透析に比べ,残存腎機能をより長く維持でき,また,通院回数も月に2回程度ですから,通院による時間的拘束も少なく済みます。さらには,脳卒中や狭心症の発症が少ないという報告もあるようです。
しかし,腹膜透析では,腹膜が毎日透析液にさらされるため,時間の経過とともに腹膜が劣化してしまい,被膿性腹膜硬化症(下記「<合併症>」を参照。)という腹膜透析特有の合併症が起こりやすくなっていきます。被膿性腹膜硬化症は,腹膜透析を長期間継続するとその発症率及び重篤度も上昇するという傾向がみられることから,腹膜劣化の進行具合や腹膜劣化に対する治療の負担を総合考量し,腹膜劣化が著しい場合には,腹膜透析と血液透析の併用もしくは血液透析への移行さらには腎移植を考えなければなりません。
<腹膜透析特有の合併症>
腹膜透析特有の合併症の一つが上述の被膿性腹膜硬化症(EPS:Encapsulating Peritoneal Sclerosis)です。
被膿性腹膜硬化症を発症すると,嘔吐・腹痛・下痢・便秘・低栄養・微熱・血性腹水・腹部塊状物触知などの症状があらわれます。
被膿性腹膜硬化症の発症は,腹膜透析期間に比例するといわれています。これは,長期間の腹膜透析により腹膜が劣化してしまうことが発症の主要因であると考えられているためです。一般的には8年以内に腹膜透析を中止することが予防策になるといわれていますが,腹膜透析開始から8年以内であれば腹膜への影響が少ないというわけではなく,8年以内であっても腹膜劣化が著しい場合には発症防止のために腹膜透析を中止すべきことになります。
この他,腹膜透析特有の合併症としては,腹膜炎があります。これは,バッグ交換時における操作の過程で病原菌が腹腔内に入ってしまうことが原因で起こります。腹膜炎を繰り返すと,腹膜の機能が低下するだけでなく,上述の被膿性腹膜硬化症の一要因となってしまうといわれています。
<血液透析・腹膜透析に共通する合併症>
・腎性貧血
腎臓は,造血ホルモンであるエリスロポエチンの生成やビタミンDの活性化などの内分泌機能も担っていますが,これら内分泌機能を血液透析・腹膜透析で代行することまではできません。このため,慢性腎不全になってしまうと,エリスロポエチンが十分に生成されず,これが原因となって貧血に陥ってしまいます。これが腎性貧血といわれるもので,慢性腎不全患者のほとんどが腎性貧血に陥るといわれています。
・透析アミロイド症(透析アミロイドーシス)
また,透析によっても十分な除去が困難な物質があり,その一つがβ2ミクログロブリンというタンパク質で,これは透析アミロイド症と呼ばれる合併症の原因となる物質です。透析アミロイド症は,βミクログロブリンから形成されるアミロイドが,全身の骨・関節・内臓に沈着することによって起こるもので,小指を除く指のしびれや痛みが出たり(手根管症候群),指が滑らかに伸びなくなる(弾発指)などの症状が出ます。(もっとも,現在βミクログロブリンだけを吸着する透析膜の開発が進められており,一部実用化されているようです。)
・腎性骨異栄養症
上述のとおり,透析では腎臓の内分泌機能を代行することはできません。このため,腎不全の状態では,ビタミンDの活性化が十分に行われず,活性型ビタミンDの活性化障害による低カルシウム血症が起こります。さらに,腎臓からのリンの排泄低下などにより,骨からカルシウムを動員してカルシウム値を正常に保とうとする働きのある副甲状腺ホルモンの分泌が刺激されます。すると,骨からカルシウムが出て行ってしまうので,骨がもろくなったり,骨折しやすくなったり,骨や関節の痛みが出てきたりします。これら腎不全を原因とした骨の病気の総称を腎性骨異栄養症といいます。
○ 参考資料
【腎臓の機能低下と透析の必要性】/【透析療法】
・図説わが国の慢性透析療法の現況(2010年12月末版)
http://docs.jsdt.or.jp/overview/pdf2011/p11.pdf
・2010年版 腎不全の治療選択(日本腎臓学会・日本透析医学会・日本移植学会・日本臨床腎移植学会 編)
http://www.jsn.or.jp/jsn_new/iryou/kaiin/free/primers/pdf/sentaku_book.pdf
・慶應義塾大学病院 医療・健康情報サイト[KOMPAS]
http://kompas.hosp.keio.ac.jp/contents/000405.html
http://kompas.hosp.keio.ac.jp/contents/000407.html
・バクスター株式会社 快適な腹膜透析(PD)ライフのための情報誌スマイル
http://www.baxter.co.jp/patient/kidney/smile/07winter/column.html
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